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里口, 保文
日本地質学会学術大会講演要旨, 2021Journal Article
【近畿地方における水系変化】 日本における鮮新―更新世の古環境推定は,現在の地理的に隔たれた同一堆積盆内で形成されたと考えられる“層群”単位で検討が行われることが多く,隣り合った地域に同時代の層群が分布していても,それらの水系のつながりを議論することは難しい. 近畿・東海地方には,東から西へ,鮮新―更新統の東海層群,古琵琶湖層群,大阪層群が分布しており,各地域は基盤岩によって隔てられている(e.g. 日本第四紀学会編,1987).これらの層群は,大阪層群の上部の一部層準を除き,湖沼,河川,湿地などで形成された陸水成層からなり(e.g. 日本地質学会編,2009),淡水の水系としてのつながりを明らかにすることは,当時のこの地域における構造運動を知る上で,また現在の淡水生物分布の成立過程を考える上でも重要である.鮮新―更新世の機関における,近畿・東海地方の水系変化については,里口(2017)がまとめているが,その変化をした正確な時期は不明としている.その変化の中で,現在の水系につながる大きな変化として,近江盆地からの水の排水方向が,伊勢湾方向から現在と同じ京都・大阪方向へ変わった事があげられ,この変化が当時の近江盆地の水環境を大きく変えた可能性が指摘されている(里口,2015).本発表ではその変化をした時期の検討する.【水系変化のタイミングの検討】 古琵琶湖堆積盆から京都・大阪地域への水系のつながりは,古琵琶湖層群中部付近の蒲生層下部にある約230万年前の虫生野火山灰層(Msn-Jwg4テフラ)堆積時には存在していることから(里口,2017),230万年前よりも以前にできたといえる.古琵琶湖層群における蒲生層の下位に位置する甲賀層は,現在の甲賀市付近に深く安定した湖があったと推定される塊状泥層からなり,本層堆積時期における水の排出方向の直接的なデータは示されていないものの,甲賀層下部の堆積期には東側の伊勢湾方向へと図示されている(川辺,1994).つまり,甲賀層から蒲生層下部のいずれかの時期に流出方向が変化したと推定される. 琵琶湖の南東方向にある滋賀県湖南市の野洲川河床には,甲賀層最上部が分布しており,河川や周辺湿地,止水域の環境を示す地層から構成されている.このうち,河川堆積物と考えられる砂礫層の古流向を測定したところ,概ね北方向を示していた.この地点は,当時の湖があったと考えられる地域に対して,西方に位置していることから(川辺,1994),北方向を示す流れの河川は,この地域から東方にあった湖へ流入していたとは考えにくい.それに対し,本地点の西側と南側には基盤岩の高まりがあり,これら周辺の古琵琶湖層群との境界付近の変形などが見られないことから,本地域堆積期以降に地域的な構造運動はなかったと推定され,本層堆積時期にもこの基盤岩の高まりがあったと考えられる.つまり,本地域は堆積当時の地形的制約として西方へ流れることができなかったと考えられる.本調査地点のみの古流向で,当時の堆積盆の水系を議論するのはあまりに危険ではあるが,本地点の北向きの流れは,西方へ流れることができなかった地形的制約を避けるために北側の流れを作っていた可能性も考えられ,甲賀層最上部の堆積時期には,近江盆地からの排水方向が東方向から異なる方向へ変化していたことを示しているのかもしれない.【文献】 川辺孝幸,1994,琵琶湖の自然史.25-72,八坂書房.;日本第四紀学会編,1987,日本第四紀地図,東京大学出版会.;日本地質学会編,2009,近畿地方,朝倉書店,p453.;里口保文,2015,日本地質学会第122年学術大会講演要旨,70.;里口保文,2017,化石研誌,60-70.
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