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  • 我々は大麻から何を学ぶか?
    仲田義啓

    日本薬理学雑誌, 03/2005, Letnik: 125, Številka: 3
    Journal Article

    大麻を不法に使用する若者は世界中で1.5億人ぐらいと推定されており, 15歳以上の全人口の約3. 7%に達している(Public health and public policy, Cambridge:Cambridge University Press, 2003). 主にマリファナ煙草, 大麻油として摂取されている. マリファナ(marijuana)は, 大麻(学名, カンナビス, サチィーヴァCannabis sativa)をあらわす言葉であり米国で使用されているが, 欧州ではカンナビスが一般的である. 人類が大麻を始めて使用したのは, 古代中国の陶器片に大麻を押し付けた跡が残っていることから, 紀元前1万年の頃らしい. そして, 紀元前1122~256年の周王朝時代には大麻栽培がなされ, 中国の神農本草経に大麻をワイン漬けにして鎮痛薬として用いたと記載されている. インドでは千年以上前から大麻を精神活性薬として使用しており, インド文化や生活に根付いてきた. そして, 12世紀ごろにアラブ地方で, Sufi(イスラム神秘主義)のHaydal(ハイダル)が, 山で大麻の葉を偶然に食べ強力な精神高揚作用を知った. 時に18世紀, ナポレオンはエジプトでの大麻中毒の実態を目の当たりにし, 大麻により自軍が弱体化することを憂慮し禁止した. が, エジプトで頻用された大麻が欧州に, そしてアメリカ大陸に広がった. 大麻の薬理活性の本体は, Δ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)であることが1964年に明らかになり(J Am Chem Soc. 1964;86:1646-1467), 脂質性に富む構造により, 生体膜を通過して作用すると考えられた. しかし, 1990年代にTHCの受容体がクローニングされ(Nature. 1990;346:561-564), 7回膜貫通型の受容体で, 中枢神経系のみならず末梢組織に存在するカンナビノイド受容体1(CB1)とリンパ球やマクロファージなどの免疫系の組織に存在するCB2が確認され, 一気に研究が展開した(Pharmacol Rev. 2002;5:161-202). 即ち, 治療目的のために, 製薬企業が受容体に高親和性に結合する合成カンナビノイドを開発し, 抗がん薬や癌性疼痛の緩和薬などに使用しようとしている(Nature Review Cancer. 2003;3:745-755;Lancet Oncol. 2005;6:35-42). 一方, オピオイド受容体に作用する内因性のリガンドの存在と発見の経緯から, 1990年代から内因性のカンナビノイドの検索が試みられ, アナンダミド(アラキドン酸とエタノールアミンのアミド体)が生体に存在するエンドカンナピノイド(endocannabinoid)として最初に報告され(:Science. 1992;258:1946-1949), つづいて2-AG(2-arachidonoylglycero, Biochem Pharmacol. 1995;50:83-90), N-アラキドニルドパミン(N-arachidonyl-dopamine, Life Sci. 2003;73:487-498), N-オレオイルドパミン(N-oleoyldopamine, J Biol Chem. 2003;278:13633-13639)などの報告が続いており, これらのエンドカンナビノイドの生理機能の解明が待たれる. 並行して, CBノックアウトマウスの作成から, これらCB受容体の機能の解明が試みられている(Science. 2003;302:84-88 for CB1;Eur J Pharmacol. 2000;396:141-149 for CB2). 米国の薬理学者Synderは, Iversenの著「The Science of Marijuana」(Oxfbrd University Press, 2000)の前書きで, More than virtually any drug in history, cannabis exemplifies the adage that history repeats itself again and again ---and we never learn. (歴史上使用した薬で, 大麻ほど歴史は繰り返すという格言を実証した薬物はない, そして, 我々は(大麻から)何も学んでいない)と書き出している. 大麻は, その精神活性化作用のため""killer drug""として世界各国で禁止されている反面, 大麻を医薬品として使用することを希望する人々もいる. 今後, 大麻主成分のTHCの薬理作用が詳細に明らかになり, 意図しない有害作用や精神活性化作用との分離が可能になるならば, 鎮痛剤やガンおよび免疫領域での有効な治療薬の開発が可能になる. だから今, 我々は大麻の薬理を学ぶ必要がある. 2004年12月号のJ Pharmacol Sci. のForum Minireviewsで, 'New Perspectives in the studies on endocannabinoid and cannabis. ' (J Pharmacol Sci. 2004;96;361)が掲載されているし, 'Cannabinoids and cancer:causation, remediation, and pallition'(Lancet Oncol. 2005;6:35-42)がある. 現在, 欧米で認可されているTHC製剤であるドロナビノール(dronabinol)(マリノール(Marinol(R)))は, 抗がん薬, 癌性疼痛の緩和薬やAIDS患者の体重減少の緩和のための食欲亢進薬として使用されているが, ゴマオイル懸濁したカプセルのためか経口生物学的利用率が不安定であり(つまり, 効くときもあれば, 効かないときもある), 重大な副作用(例:眠気, 起立性低血圧, 口腔乾燥, 気分変動, 視覚および時間感覚の変容)があるが, 日本では許可されていない. Iversenは, 近著「Drugs, a very short introduction」(Oxford University Press, 2001, 邦訳「薬」広中直行訳, 鍋島俊隆解説, 2003)で, 「20世紀末から, 私たちは大麻をめぐる興味深い論争の中にある. それを医師の薬棚に再び入れるべきか, そうではないかを決断しなければならない. 」と述べている. 今, 私たちは大麻から何を学び, どのように対処するかが問われている. Nakata Yoshihiro E-mail:ynakata@hiroshima-u.ac.jp"